最高のボジョレー・ヌーヴォーとは何か? -ボジョレー・ヌーヴォーの共通点-

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ワインをさらに楽しむために、『最高のボジョレー・ヌーヴォーとは何か?-ボジョレー・ヌーヴォーの共通点-』について取り上げたいと思います。

毎年11月の第3木曜日に解禁されるボジョレー・ヌーヴォー。フランス・ブルゴーニュ・ボジョレー地区で、その年に収穫したガメイ種100%で造られるワインの新酒です。日本での知名度は高いのですが、近年は一時期ほどの盛り上がりはなく、ワインラバーからの評価も二極化しています。今回はそんなボジョレー・ヌーヴォーについて、身体意識の観点から共通点と本質に迫るため、具体例とともに取り上げてみます。

■ ボジョレー・ヌーヴォーの身体意識の共通点

これまで20年以上ボジョレー・ヌーヴォーを味わって来ていますが、一部の例外を覗き、身体意識には共通点があります。

結論から言えば、それは下半身、特に腹・腰から脚にかけての身体意識がほぼ形成されていない、ということです。これは造り手、生産地域、格上(ヴィラージュ)かどうか、生産年、瓶と樽、航空便と船便など、条件が異なっていても共通しています。

このような身体意識の共通点は、ボジョレー・ヌーヴォーの特徴である、キャンディや苺のような香り、フレッシュで軽やかな果実味、少ないタンニンなどとも関係しており、製法である「マセラシオン・カルボニック」※における共通点とも言えます。

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※ マセラシオン・カルボニックは炭酸ガス浸漬法とも呼ばれる製法。葡萄を破砕せずに発酵タンクへ入れ、密閉した状態で数日間置く。すると葡萄の自重により自然に潰れた下部の葡萄が発酵して炭酸ガス(Co2)が発生。タンク内は炭酸ガスに満たされた環境となり、その結果酵母発酵ではなく葡萄の細胞内発酵を引き起こし色素を抽出する。

それでは、具体的なワインを取り上げ、その身体意識を比較し、解説していきたいと思います。

素晴らしい造り手が多いため、どのワインを選ぶか迷いましたが、今回は以下4本に絞りました。ビンテージは全て2021、解禁日である11/18にテイスティングしています。

①ジャン・クロード・ラパリュ
ボジョレー・ヴィラージュ・ヌーヴォー
Jean Claude Lapalu Beaujolais Villages Nouveau

Jean Claude Lapalu Beaujolais Villages Nouveau_2021
Jean Claude Lapalu Beaujolais Villages Nouveau_2021

□地域
シャレンタ(ブルイィの北東)

□ガメイという品種の持つ可能性を徹底的に追求する造り手。木製垂直式プレスで圧搾。ピノ・ノワールとも比較されるほどのエレガンスと凝縮感を持つと評価されており、パリの3ツ星レストラン「タイユヴァン」で毎年採用されている。

② ジョルジュ・デコンブ
ボジョレー・ヴィラージュ・ヌーヴォー
Georges Descombes Beaujolais Villages Nouveau

Georges Descombes Beaujolais Villages Nouveau_2021
Georges Descombes Beaujolais Villages Nouveau_2021

□地域
モルゴン

□ フランス自然派ワインの父であり、ボジョレー界のカリスマ「マルセルラピエール/Marcel Lapierre」の一番弟子と呼ばれる。瓶詰め業者から造り手に転身した異色の経歴を持つ。濃厚な力強さの中に優しさが同居していると評価されている。

③ フィリップ・パカレ
ボジョレー・ヴァン・ド・プリムール
Philippe Pacalet Beaujolais Vin de Primeur

Philippe Pacalet Beaujolais Vin de Primeur_2021
Philippe Pacalet Beaujolais Vin de Primeur_2021

□地域
モルゴン

□ 世界最高峰のワイナリーであるD.R.C.(ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ/Domaine de la Romanee Conti)の醸造長へのオファーを断り、自らの理想を追求するリアリスト。ガメイ種は本来エレガントで気品ある品種だと考え、ヌーヴォーにおいてもその理念を追求している。この緑ラベルは、東日本大震災で苦難に見舞われた日本の「再生」をイメージしたもの。

④ ドメーヌ・ド・ラ・マドンヌ
ボジョレー・ヴィラージュ・ヌーヴォー
Domaine de la Madone Beaujolais Villages Nouveau

Domaine de la Madone Beaujolais Villages Nouveau_2021
Domaine de la Madone Beaujolais Villages Nouveau_2021

□地域
ル・ペレオン

□ ワイン専門誌「ワインスペクテーター/Wine Spectator」のボジョレー・ヌーヴォー特集にて、2005・2009・2014・2016に第1位を獲得。マセラシオン・カルボニックではなく、長期熟成型ブルゴーニュワインとほぼ同様に2倍の時間をかけて発酵。樹齢120年の古樹を含む。

いずれも一般の方から専門家まで、幅広い層からの評価の高いボジョレー・ヌーヴォーです。

■ ボジョレー・ヌーヴォーの身体意識

① ジャン・クロード・ラパリュ/Jean Claude Lapalu

BA_ジャン・クロード・ラパリュ ボジョレー・ヴィラージュ・ヌーヴォー2021
BA_ジャン・クロード・ラパリュ ボジョレー・ヴィラージュ・ヌーヴォー2021

天性のクオリティを持つセンターは、細径軸より少し太い軸と薄っすらとした中径軸が胸の高さまで通っています。

薄く少し幅のあるサイド・センター(第2側軸)が胸の下まで通っています。センター同様天性のクオリティを持っており、その影響からか、股関節中心に形成される転子という身体意識も薄っすらと感じられます。このサイド・センターや転子は、造り手の身体意識が反映されたものだと考えられます。

胸部には中丹田が形成されており、その斜め上方からは太陽とつながるリバースという身体意識が形成されています。また、この中丹田には地下からも熱性のクオリティを持つ身体意識を導入しています。これらは太陽や畑などのテロワールからの影響が反映されたものです。中丹田から少し上方へ熱性のエネルギーが漏れていることで、飲むと盛り上がるような味わいを生み出しています。

このように身体意識から観ると、ジャン・クロード・ラパリュのボジョレー・ヌーヴォーはセンター系身体意識により、ストラクチャの形成されにくいヌーヴォーにおいても、ワインの骨格となりうる味わいとエレガンスを生み出していることが分かります。ヌーヴォーは下半身に身体意識が形成されにくいのですが、転子が形成されていることから、他のヌーヴォーとは異なる個性とレベルの高さを感じさせてくれます。

② ジョルジュ・デコンブ/Georges Descombes

BA_ジョルジュ・デコンブ ボジョレー・ヴィラージュ・ヌーヴォー_2021
BA_ジョルジュ・デコンブ ボジョレー・ヴィラージュ・ヌーヴォー_2021

涼やかな天性のクオリティを待つ左右併せて4本の身体意識が、天から降りてきています。そこへ重なるようにL字を少し傾けたような身体意識も形成されています。このL字話型の身体意識は、熟成などによりさらに育ってくると、ロート状のセンターになっていく可能性があります。

胸部に形成された中丹田は大きな二重構造になっており、豊かな果実味を生み出しています。この中丹田は中心部に凝縮感があり、時間の経過とともに大きくなっていきます。この中丹田へ向かって、地下から熱性のクオリティを持つ身体意識が入ってきています。体幹部よりも広い幅であり、テロワールからの影響を感じさせます。

この地下からの熱性身体意識の流れは、喉の辺りに少し漏れているのですが、これもジャン・クロード・ラパリュ同様に、飲むと盛り上がるような味わいを生み出していますが、ラパリュよりもはっきりと漏れています。

この二重構造の中丹田の外側へ、それぞれ上から重なるように天性のクオリティを待つ身体意識が形成されており、熱性身体意識が上部へ漏れすぎるのを防いでいます。上下に重なっている間には隙間があり、そこへ料理を合わせたくなる印象があります。この身体意識は、さらに育ってくると肩包面という面状の身体意識へなっていく可能性があり、そうなるとワインのスケール感は上がりますが、喉へ熱性身体意識が漏れることはなくなるため、ヌーヴォーらしい盛り上がりはなくなりそうです笑

このように身体意識から観ると、ジョルジュ・デコンブのボジョレー・ヌーヴォーは、二重構造の中丹田により、内側の中丹田の凝縮感と外側の中丹田の柔らかさから、力強さと優しさを両立させることに成功しています。そしてそこへ涼やかなクオリティが上空から降りてくることにより、飲み飽きさせないバランスになっています。

③ フィリップ・パカレ/Philippe Pacalet

BA_フィリップ・パカレ ボジョレー・ヴァン・ド・プリムール_2021
BA_フィリップ・パカレ ボジョレー・ヴァン・ド・プリムール_2021

天性のクオリティを持つセンターは、細径軸より少し太い軸が下腹部の高さまで通っています。これは造り手自身の身体意識が反映されたものでしょう。

そのセンターへ沿うように天性のクオリティを持つ身体意識が天から降りてきています。

頭部にはお椀を逆にしたような身体意識と、その上へ乗るように形成されたガイアのクオリティを持つ身体意識があり、これからまだまだ熟成し身体意識が育っていくようなポテンシャルを感じさせてくれます。

胸部に形成された中丹田は大きな球状のものと、その上部へ重なるように横長の楕円球状のものが形成されており、味わいへ時間差の伴う果実味の満足感を与えています。この時間差は、味わいが単調になり切らないエレガントな工夫だと思います。

中丹田の上部には、二重構造の肩包面が形成されています。ボジョレー・ヌーヴォーに肩包面が形成されている例は稀ですが、それがさらに二重構造になっていることで、フィリップ・パカレの哲学を感じさせてくれます。この肩包面により、飲んだ時に浮ついたような盛り上がり方はせず、中丹田により盛り上がりつつも、落ち着いて味わうことができるヌーヴォーへと仕上げています。さすがフィリップ・パカレ、といったところでしょうか。

両脇には心田・心田流が形成されています。熱性のクオリティとガイアのクオリティを導入しており、味わいへ温かく豊かな印象を与えています。

両手掌には天性のクオリティ持つパームが形成されています。これは栽培から収穫、醸造まで、繊細な作業を行う造り手の身体意識が反映されたものです。

このように身体意識から観ると、フィリップ・パカレのボジョレー・ヌーヴォーは、他のヌーヴォーと比べてストラクチャが強くはっきりとしており、今味わっても美味しいですし、今後も熟成によりさらに良くなっていくポテンシャルも感じさせてくれます。専門家からの評価の高さがよく分かる身体意識です。

④ ドメーヌ・ド・ラ・マドンヌ/Domaine de la Madone

BA_ドメーヌ・ド・ラ・マドンヌ ボジョレー・ヴィラージュ・ヌーヴォー_2021
BA_ドメーヌ・ド・ラ・マドンヌ ボジョレー・ヴィラージュ・ヌーヴォー_2021

天性のクオリティを持つセンターは、細径軸と中径軸が天地に抜け通っています。ほとんどのボジョレー・ヌーヴォーには観られない、この抜け通っているセンターが最大の特徴でしょうか。

前頭部には、天性のクオリティを持つ涼やかな身体意識が真上から降りてきています。これは冷涼なテロワールからの影響だと考えられます。

胸部に形成された中丹田は二重構造になっており、そこへ地下から熱性のクオリティを持つ身体意識が入ってきています。また、両脇に形成された心田・心田流からも熱性身体意識を導入しており、それが中丹田、さらには手掌と腕全体を包むようなパームと呼ばれる身体意識の形成につながっています。肩甲骨の裏側にも熱性身体意識が形成されています。

中丹田から少しだけ上部へ熱性身体意識があふれているので、飲むと盛り上がりたくなる感じもあります。中丹田の上部にはジョルジュ・デコンブの身体意識に観られたような、中心部が空いた肩包面のような身体意識があるので、これも熟成により左右がつながり、肩包面となる可能性もあります。そうなると、熱性身体意識があふれなくなるため、さらに落ち着いた印象となります。

仙骨の両脇には、短い側軸が形成されています。左右の位置は仙骨に沿っているので1.5軸くらいの位置でしょうか。天性のクオリティを持っており、味わいへ良質な骨格を与えています。

このように身体意識から観ると、ドメーヌ・ド・ラ・マドンヌのヌーヴォーは、熱性身体意識が生み出す満足感の高い果実味と、ヌーヴォーらしからぬセンターと側軸により、しっかりとした質の高いストラクチャを創り出しています。下半身の身体意識が弱い、というボジョレー・ヌーヴォーに共通する弱点を克服しているところそのものがこのワインの個性とも言えます。

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■ 最高のボジョレー・ヌーヴォーはどの造り手のヌーヴォーか?

こうして4本のボジョレー・ヌーヴォーを観ていくと、それぞれ特徴的な身体意識を持っており、固定ファンがいるのもよく分かります。どのワインも造り手やテロワールの身体意識がよく反映されており、気候条件などが困難な年においても完成度の高いワインを造る、という強い意思が伝わってきます。

その中で敢えて身体意識の完成度で順位をつけるならば、

1位:ドメーヌ・ド・ラ・マドンヌ/Domaine de la Madone
2位:フィリップ・パカレ/Philippe Pacalet
3位:ジャン・クロード・ラパリュ/Jean Claude Lapalu
4位:ジョルジュ・デコンブ/Georges Descombes

いったところでしょうか。

BA_ボジョレー・ヌーヴォー_2021_比較
BA_ボジョレー・ヌーヴォー_2021_比較

ただし、端的に身体意識が1番素晴らしいからそれが1番素晴らしいボジョレー・ヌーヴォーだ、と結論付けることに少し疑問もあります。

どういうことかといえば、ボジョレー・ヌーヴォーには、どのくらい「ボジョレー・ヌーヴォーらしさ」があるのか、ということもある意味評価基準になるのではないか、とも思うのです。

身体意識的にボジョレー・ヌーヴォーとしての特徴を十分残しつつ、その中で最も素晴らしい身体意識を持ち、かつ美味しいものが最高のボジョレー・ヌーヴォーと呼べるのではないでしょうか。

そのような観点から言えば、「ドメーヌ・ド・ラ・マドンヌ/Domaine de la Madone」は、ボジョレー・ヌーヴォーとして1番、とは言い難いのです。

したがって、この4本の中で、ボジョレー・ヌーヴォーとして1番素晴らしいワインは、「フィリップ・パカレ/Philippe Pacalet」であると思うのですが、皆様はいかがでしょうか。

もちろん今回取り上げなかったボジョレー・ヌーヴォー、
例えば、

ルロワ/Leroy
□ フレデリック・コサール&ケビン・デコンブ/Frederic COSSARD&Kewin
タイユヴァン/Taillevent
□ ジョルジュ・デュブッフ/GEORGES DUBDEUF
□ ジョゼフ・ドルーアン/Joseph Drouhin
□ ルイジャド/Louis Jadot
□ ドミニク・ローラン/Dominique Laurent
ラピエール/Lapierre
□ ルイ・テット/Louis Tete
ルー デュモン/LOU DUMONT
□ ジャン・フォワヤール/Jean Foillard
□ シルヴェール・トリシャール/Sylvere Trichard
ジル・ド・ラモア/GILES DE LAMOIRE
□ ドメーヌ・デ・ピエール/Domaine des Pierres
□ ドメーヌ・シャサーニュ/ Domaine Chassagne
□ ドメーヌ・レ・グリフェ/Domaine les Gryphees
□ クリスチャン・デュクリュ/Christian Ducroux

などについてはどうなんだ??と思われている方もいらっしゃると思います。私自身も新たな個性を持つワインに出会い、感動することを楽しみにしていますので、今後も研究を進めていきたいと思います。特に「ルロワ/Leroy」は気になりますよね笑

身体意識(Body Awareness)とは

代表的な身体意識

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