ワインをさらに楽しむために、『垂直テイスティングと水平テイスティング』について取り上げたいと思います。
ワインのテイスティング方法に「垂直テイスティング/Vertical Tasting」と「水平テイスティング/Horizontal Tasting」というものがあります。
この垂直・水平というのは、ワインの生産年、つまりヴィンテージを基準としてつくられた概念です。
「垂直テイスティング/Vertical Tasting」とは、同じ造り手のワインにおいて、ヴィンテージの異なるワインを比較することです。ワインの味わいを決定する主要なファクターとして、造り手とヴィンテージ以外に、テロワールと葡萄品種などがありますが、垂直テイスティングはヴィンテージの違いによるワインの違いを味わうものですので、基本的にはヴィンテージ以外のファクターは同じものに揃えて行います。
ビンテージ | 2015 | 2010 | 2005 |
生産者 | 造り手A | 造り手A | 造り手A |
国・産地 | イタリア・トスカーナ | イタリア・トスカーナ | イタリア・トスカーナ |
葡萄品種 | サンジョベーゼ | サンジョベーゼ | サンジョベーゼ |
それに対して、「水平テイスティング/Horizontal Tasting」とは、同じヴィンテージのワインで、異なる造り手のワインを比較することです。こちらも基本的には比較したいファクター以外は同じものに揃えて行います。ただし、水平テイスティングについては、ヴィンテージ以外に造り手も同じ造り手に揃えることで、畑の違いや品種の違いを味わったり、異なる造り手でテロワールも変えることで、造り手とテロワールの組み合わせを1つのファクターとして扱い、他のファクターによる違いを味わうこともできます。
ビンテージ | 2015 | 2015 | 2015 |
生産者 | 造り手A | 造り手B | 造り手C |
国・産地 | ブルゴーニュ・ヴォーヌ ロマネ | ブルゴーニュ・ヴォーヌ ロマネ | ブルゴーニュ・ヴォーヌ ロマネ |
葡萄品種 | ピノ・ノワール | ピノ・ノワール | ピノ・ノワール |
ビンテージ | 2015 | 2015 | 2015 |
生産者 | 造り手A | 造り手A | 造り手A |
国・産地 | ブルゴーニュ地域名 | ブルゴーニュ村名 | ブルゴーニュ特級畑 |
葡萄品種 | ピノ・ノワール | ピノ・ノワール | ピノ・ノワール |
ビンテージ | 2015 | 2015 | 2015 |
生産者 | 造り手A | 造り手A | 造り手A |
国・産地 | スペイン | スペイン | スペイン |
葡萄品種 | テンプラニーリョ | ガルナッチャ | モナストレル |
ビンテージ | 2015 | 2015 | 2015 |
生産者 | 造り手A | 造り手B | 造り手C |
国・産地 | フランス・ロワール | ニュージーランド | カリフォルニア |
葡萄品種 | ソーヴィニョン・ブラン | ソーヴィニョン・ブラン | ソーヴィニョン・ブラン |
これらの垂直テイスティングと水平テイスティングをうまく組み合わせると、多様なワインの味わいが、どのファクターに起因するものなのか、ということが少しずつ感じられてきます。特に身体意識が感じられるテイスティングができると、表面上の情報だけでは見えてこない違いや共通性が見えてくるので、ワインに対してより深い理解と共感が生まれてきます。
ボルドーに代表されるアッサンブラージュも広い概念でいえば、その場で水平テイスティングを行いながら、過去の記憶や身体意識として潜在意識下へ沈降したものを垂直テイスティング的に高度に比較することで、ベストなブレンド比率に調整しているとも言えますね。
より専門的に言えば、農薬を使用した畑と使用しない畑、というような限定された比較も可能です。
さらに、上記で取り上げた各要素である「ヴィンテージ」「造り手」「国・産地(テロワール)」「葡萄品種」はワインそれ自体を基底している内的要素ですが、それらが全て同一のワインであっても、「ワインの温度」「室温」「湿度」「気圧」「時間帯」「ワイングラス」「北半球・南半球」「飲むメンバー」「注ぎ手」「自分自身の体調や身体意識」「飲む空間」といった様々な外的要素を固定要素・変動要素として扱うことで、『広義の水平テイスティング』を楽しむことができます。「注ぎ手」によって同じワインでも全く味わいが異なることは、本サイトにおける重要なテーマの1つですね。
ワインには「テロワール」という素敵な概念があります。通常のテロワール(自然環境要因)という言葉の意味からは離れてしまいますが、葡萄品種などの内的要素をワインにとっての『内的テロワール』とすると、ワイングラスなどの外的要素はワインにとっての『外的テロワール』と概念化できるかもしれません。そうすると比較テイスティングの方法は、より多岐にわたりながらも非常に整理されたものとなってきます。
「北半球・南半球」といえば、本サイトでご紹介させていただいた「トルネード乾杯」は、北半球では左回転、南半球では右回転で行う、つまり地球の自転方向に合わせることで効果を発揮します。
テイスティングにおいて身体意識の観点では、垂直テイスティングはセンターに代表される垂直系の身体意識やレーザーと呼ばれる身体意識、水平テイスティングは肩包面やスライサーに代表される水平系の身体意識をよく利かせて行うと、より目的に即したテイスティング効果を発揮することができます。もちろん、その前提としてそのワインの規模に見合った身体座標空間をきっちりと形成することも必要です。また、垂直テイスティングは、時間を遡りながらテイスティングを行うため、身体意識の中の「時間意識」という意識も重要になってきます。
テイスティングについては、3次元座標を用いるとより明確になります。例えば、X軸がヴィンテージ、Y軸が葡萄品種、Z軸が造り手とすると、どれかひとつの軸のみ変動させるとその変動成分の特徴がよく分かります。
Y軸とZ軸の要素を固定し、ヴィンテージ( X軸)のみ比較するテイスティング
X軸とZ軸の要素を固定し、葡萄品種(Y軸)のみ比較するテイスティング
X軸とY軸の要素を固定し、造り手(Z軸)のみ比較するテイスティング
その場合、名称はXテイスティングとかYテイスティングとか呼ぶんでしょうかね?笑
本サイト料理長からは、あまり座標系で考えすぎると、脳疲労で素直にワインを楽しめなくなる、と指摘を受けています笑
ワイン造りとも関わる、非常に重要な概念ですね。