ブショネに代表されるワインの劣化について、考えてみたいと思います。
ワインの劣化については、以下のような原因が考えられます。
・コルク由来の劣化(ブショネ)
・酸化
・温度
・湿度
・光
・振動
また、劣化とは言えませんが、本来のワインと異なる香りや味わいになってしまう、以下のようなものもあります。
・還元臭
・ブレタノマイセス
それでは順に説明します。
【コルク由来の劣化(ブショネ)】
ブショネの場合、カビの臭いや腐敗したコルクの臭いが生まれます。
主に天然コルクを使用しているワインに起こり、その原因はコルク洗浄などに用いられる塩素系消毒剤とバクテリアが化学変化を起こして発生するトリクロロアニゾールと言われていますが、コルク以外が原因の場合もあるそうです。
程度にもよりますが、ブショネによる身体意識への影響はかなり大きく、例外なく身体意識は衰えます。
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改善方法としては、トリクロロアニゾールと結びつきやすいポリエチレン系のサランラップなどをワインへ浸したり、ポリエチレン系の袋の中へワインを入れることが有効です。
【酸化】
コルクの劣化により隙間が空き、そこから瓶の中へ空気が入ることによって起こります。また、保管状況によりワインが高温になることでコルクから空気が入り起きることもあります。いずれにしても、酸化による劣化の場合、果実味や香り、風味が失われてしまいます。
ワインは適切な酸化によって美味しくなり、身体意識が高まる飲み物ですので、上記のような不適切な酸化でも軽度であればその影響は少ないですが、ベストコンディションとは言えない状態になります。
【温度】
高温下(28℃以上)の化学反応を起こしやすい環境に長時間晒されると酸化が起こり、急激にワインの味わいや風味が失われてしまいます。熱劣化とも言われ、恒常的な高温下の環境や頻度の高い高温への変化を繰り返すと熱により瓶内で再発酵が起こり、ひどい場合は液体が外へ噴き出してしまいます。
また、0℃以下の低温下や、長期間冷蔵庫内の環境(3℃-5℃)へ置かれた場合にも、風味の劣化、酸やミネラル感のバランスの変化は起こります。白ワインなど低温で飲まれるワインのうち安価で供給量が多いワインの場合は、出荷前に低温処理の行程を経ていることが多く、酒石酸などの不純物を取り除いているため低温時の劣化は少ないですが、深さや複雑さはありません。
環境による変化が少なく安定感があるので、レストランなどでは使いやすいワインと言えます。逆に高価な少量生産のワインになると、その処理を行わないため、保存環境にコストはかかりますが、味わいは深く複雑なものが多いです。
資本の少ないワイナリーでは、このような環境に長期間置ける設備がなく、コストもかかるため、飲み頃になる前に出荷してしまうことが多くなります。難しい問題ですね。
以上を踏まえると、ワインの保管は14℃程度が適切と言えます。
適正温度についてはこちらから
【湿度】
適度な湿度(65%-70%)はコルクを乾燥から守ります。ワインにとって適切な温度と湿度はカビの生えやすい環境でもありますが、飲むときに拭き取れば問題ありません。
もし抜栓してもカビの臭いがあるようなら、それはコルクの劣化など別の原因が考えられます。
コルクが乾燥してしまうと、瓶との間に隙間が空き、空気が入り込んでしまうため、酸化劣化の原因となります。それを防ぐためには、適度な湿度の環境でワインを横に寝かし、ワインをコルクへ充分に染み込ませることが大切です。
そうすることで、完全密閉に近い状態となり、長期保存へ耐えうる条件が整います。スクリューキャプのワインでは起こりにくい問題です。
別の話題ですが、天然コルクのワインとスクリューキャップのワインでは同じワインでも熟成の進み方が異なる、という事実があります。
その理由として、天然コルクは外気と呼吸をしているから、呼吸はしていないが封入時にかかる圧力によってコルク内の空気が瓶内へ押し出され、その分酸化が進むから、樽のようにコクル自体がワインへ触れることにより味わいへ影響を与えているから、など諸説挙げられ議論されています。
その証明のため、天然コルクの酸素通過量を測定したり、天然コルクよりも密閉度の高い合成コルクを作りその違いを測定したり、他の素材との比較を行ったり、実に様々な実験が行われています。
この議論へ一石を投じるとすれば、本サイトのテーマである「身体意識」が及ぼす影響です。
ワインは液体であるため、ベースとして液体の身体意識の特徴を持っています。瓶で長期保存し、その期間に熟成による変化を期待する場合、最終的により液体との親和性のある素材の方がワインの身体意識に影響を与えます。適切な影響を与えつつも身体意識が高まる素材こそが求められるのです。
一方、瓶詰めの時点で完成状態にあるようなワインは、液体へ全く影響を与えない素材の方が適しています。
つまり、熟成か現状維持かという長期保存の目的を前提として、ワインの身体意識(主に液体としての身体意識)、栓へ使用する素材の身体意識、さらには瓶などの容れ物の素材や形状の身体意識の組み合わせで考える必要があるということです。
その結果、現状では天然コルクによる熟成がよい、ということなのだと思います。
従って近い将来、天然コルク以上に熟成に適した素材が見つかったり、熟成用に瓶以外の素材や新たな形状が開発されるかもしれません。
【光】
日光や蛍光灯などに当てることもワインの劣化を引き起こします。紫外線が主な原因であり、それを防ぐため、ワインに使用される瓶には様々な着色(濃い緑や青、茶色、黒など)が施されていますが、完全に防げるわけではありません。
透明な瓶のものは特に劣化しやすいので、注意が必要です。マグナムなどの大きいサイズの方がその影響は少なくなりますが、劣化は起きます。
光により劣化したワインは、瑞々しさがなく干からびたような印象になります。当然身体意識もそのような状態になってしまいます。
【振動】
輸送、冷蔵庫や機械式セラーの振動による劣化はある種避けられないものです。そのためあまり話題にはされませんが、特にスパークリングワインや古酒へは大きな影響を与えます。
若いワインやアルコール度の高いワイン、デザートワインなどには影響を与えにくいようです。また、劣化までいかなくても、輸送後すぐに飲むと、ワインが落ち着かない状態、俗に言う暴れている状態になっていることが分かります。
古酒ではオリが舞ってしまいますし、輸送後は若いワインでも3日間、シャンパーニュなどのスパークリングワインや古酒であれば1ヶ月から半年は寝かせて落ち着かせるべきです。十分に寝かせたお店で購入しても、家まで運ぶ間に暴れてしまうほど繊細なワインもあります。
振動の影響を受けると、ワインは身体意識でいうところのストラクチャーがぼやけ、粒子が粗くなりシルキーさが失われる印象となり、旨味や甘みも失われます。
若いワインであれば、身体意識の操作で落ち着かせることも可能です。その場合は、息を吸い続ける呼吸意識を使います。ワインボトルから吸引(息を吸っているつもり)し、その結果ボトルへ天性の気を降ろし落ち着かせます。
気功の上級者になると、スパークリングワインや古酒でも落ち着かせることができますが、古酒のオリを落ち着かせるにはそれなりの時間が必要です。
【還元臭】
ワインの醸造過程は基本的に酸化が進みますが、瓶詰め後の密閉された嫌気的空間では酸素不足となり、そこで起きる還元反応により生成された硫黄化合物の発する臭いが還元臭です。
その多くは不快な臭いで、腐卵臭(硫化水素)、刺激臭(二酸化硫黄)、漬け物臭・金属臭・鉱物臭(チオール基含有物質)など、様々な臭いがありますが、一般的に還元臭といえば腐卵臭のことを指す場合が多いです。
比較的若いビオディナミなどの有機農法のワインで発生することが多いため、俗に「ビオ臭」とも呼ばれますが、厳密には還元臭とは概念が異なります。ビオディナミ以外のワインにも還元臭は発生します。
また、ソーヴィニョンブランなどの「ツゲの若葉」と形容される特徴的な青草の香り成分は、還元反応を伴わないチオール系化合物から生まれる香りで、心地よい香りのため還元臭とは区別し、「非還元香」と呼びたいところです。海苔などのヨード香や煙のニュアンスも適度であれば非還元香と言えます。
ワインを飲む際に還元臭を感じた場合、最も代表的な対処法はデキャンタージュによる酸化促進です。また、銅の棒を浸す方法も有効です。ただし、心地よい還元香も消えてしまうので注意が必要です。
全ての還元臭が改善される訳ではありませんが、これらは効果的な方法です。
批判を恐れずに言えば、還元臭のあるワインは未完成のワインです。しかし、生産者の中には、還元臭が問題であるという認識を持たない方も数多くいます。個人的には、還元臭のあるワインをリリースする時には、その対処方法も明記して欲しいと思います。そうすることで、より多くの人が、そのワインの本当の美味しさ、ワインの持つ感動構造を体感できる可能性があるからです。
【ブレタノマイセス】
ブレットとも呼ばれる酵母の一種であり、世界中のワイン、特に赤ワインから見つかっています。このブレタノマイセスの影響を受けると、以下の物質が生成され臭いを生みます。
・エチルフェノール
馬小屋、濡れた革、濡れ犬、納屋、消毒薬などの臭い。
・メチル酪酸
馬、乾いた革の臭い
・エチルグアイヤコール
スモークの香り、スパイシーな香り
この内、心地よい香りであるエチルグアイヤコールはポジティブに捉えられることが多いです。他の2つも、低濃度の場合はワインへ複雑さを与えるため、必ずしもマイナスではないのが難しいところです。ただし、量が増えるとぶどうの品種由来のフルーティさや果実感が失われます。
このブレタノマイセスに対しては、否定派と肯定派に分かれています。否定派は、ブレタノマイセスに汚染されたワインは、ワイン本来の香りや味わいではなく、例え濃度のバランスを取ったとしても全て似たような無個性なワインになってしまうと主張し、肯定派は、上手くバランスを取ることが出来れば複雑さを持つワインになり、それがワインの個性となる。ボルドーやブルゴーニュなどのグランクリュクラスのワインには、その影響を受けるものが少なくない、と主張しているようです。
いずれにせよ、ワインへ影響を与えるという事実は変わらないため、生産者がそれを選択し、コントロールできる技術が生まれることが望まれますね。
ちなみに、このブレタノマイセスの影響はデキャンタージュでは改善できないので、注意が必要です。
最後にブレタノマイセスの身体意識への影響ですが、これも味わい同様、その濃度で変わります。そのワインに対して適切な濃度の場合、明らかにプラスに働くことはありますが、個人的にはマイナスの場合が多いと感じます。
長くなりましたが、このようにワインの劣化について考えていくと、「ワインは生きものである」ということがしみじみと感じられ、嬉しくなりますね。このある種の不安定感、揺らぎがあることも、ワインの魅力の1つではないでしょうか。